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早稲田大学
創造理工学部総合機械工学科/創造理工学研究科総合機械工学専攻
輸送機器・エネルギー材料工学研究室

吉田誠研究室





アルミニウム合金鋳造欠陥予測

イントロダクション

     自動車部品用材料の機械的性質の向上に伴い、鋳造用材料として使用されていなかった非共晶展伸アルミ合金(Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Zn-Mg-Cu系等)の鋳造への適用が期待されています。(図1(a))このような合金は、常温での機械的性質は従来の鋳造用合金(Al-Si系など)に比べて優れているものの、鋳造性が悪く凝固割れなどの欠陥が発生するなどの大きな問題が存在するため、鋳造用合金としての実用化を妨げています。一方、ダイレクトチル(DC)鋳造では、図1(b)に見られるように、凝固割れの問題が既に注目されています。我々のグループが行った文献調査でも、凝固割れの理論やその推定方法については、北米や欧州を中心に世界的に報告されており、鋳造研究分野で注目されている分野の一つです。

     当研究室では、以下の観点から凝固割れ現象の研究を行っています: (1)固液共存状態の力学特性、(2)FEM熱応力解析による凝固割れ予測、(3)AE法(アコースティックエミッション法)による凝固割れ検出。凝固割れは、固体と液体がシャーベットのように共存する状態(以下、固液共存状態)で発生するため、応力解析に用いる固液共存状態の力学特性は不可欠です。これを実験的に取得することは極めて困難であり、固液共存状態の材料試験装置を開発する試みが世界的に行われています。

     当研究室では、従来の固液共存状態引張試験機を系統的に調査し、その特徴と問題点を検討し、それらを解決する引張試験機を開発しました。ここでは、当研究室で開発した引張試験機を用いて得られた固液共存状態(以下、半固体状態)と冷却過程における固相線温度以下の弾性クリープ特性について報告すます。





Fig. 1 (a) ダイカスト鋳造によるタンクサイドフレームと(b) DC鋳造スラブに見られるクラック (Larpoor,2010)





実験


     本研究で使用した試験材料はAl-Mg合金(JIS AC7A)です。この合金は非熱処理型ですが、常温で適度な強度を有し、延性にも優れているため、車体材料部品に適した材料です。しかし、凝固割れなど鋳造性に劣るため鋳物への適用には支障があります。

     当研究室で開発した図2(a)に示す半凝固引張試験装置を用いて、固相温度より高い温度で除荷試験を実施しました。この実験によりひずみの可逆性が確認され、半凝固状態での弾性特性が得られました。(結果 1 参照)また、同じく当研究室で開発した高周波誘導加熱型引張試験機(図2(b))を用い、半凝固状態での引張試験さらに固相温度以下で引張速度を変化させた引張試験を実施しました。そのときの最大応力とひずみ速度の関係から、クリープ特性が得られました。(結果2参照)





Fig. 2 (a) 部分凝固引張試験機の概略図(Chiba, 2011)、(b)凝固温度以下の引張試験機の概略図(Zama, 2011)







結果

結果 1: 半凝固状態の弾性特性

     図3(a)は、半固体引張試験機を用いた除荷試験により得られた縦弾性係数の温度依存性を示しています。この結果から、半凝固状態の弾性率は570℃付近で0に漸近していることがわかります。この弾性挙動のメカニズムが固相状態と同じかどうかは不明ですが、固相は半固相状態でも弾性挙動を示すことが示唆されています。

結果 2: クリープ特性

     各試験装置で得られたクリープひずみ速度と最大応力との間には、次のようなべき乗則が成立します。計算されたクリープ特性、すなわち応力指数の常用対数 n および材料定数 A [(MPans)-1] を図 3(b)に示します。このとき、固相率と温度の関係にはScheil-Gulliverモデルを用いたました。


creep/dt = Aσn


     図3(b)に示すように、各クリープ特性は固相温度を境界として不連続な挙動を示しています。特に応力指数nに関しては、半凝固状態では固相温度以下と比較して顕著な変化を示しました。





Fig. 3 (a) ヤング率の温度依存性、(b)材料定数nとAの温度依存性。





結論

     Al-Mg基合金の半凝固状態から固体状態までの弾性およびクリープ特性の取得を試み、フックの法則およびべき乗則に適用しました。その結果は以下の通りです。

  1. 半凝固状態の縦弾性係数は、固相線付近で22GPa、570℃付近で0に漸近した。
  2. クリープ特性は、固相線温度を境界として不連続であった。
  3. 温度が固相線温度より高い場合、ひずみ速度依存性は温度によって大きく変化する。

現在、単純形状鋳造で発生する変形挙動を熱応力解析と比較することで構成方程式の妥当性を評価しています。加えて、半凝固状態の機械的性質に及ぼす凝固割れの影響因子である結晶粒径や鋳造押湯の影響、他合金の半凝固状態の機械的性質についても検討しています。






出版物

  1. Rei Hirohara, Yasutaka Kawada, Ryosuke Takai, Mitsuhiro Otaki, Toshimitsu Okane, Makoto Yoshida, Prediction and experimental validation of cooling rate dependence of viscoplastic properties in a partially solidified state of Al-5 mass%Mg Alloy, Materials Transactions 58 (2017) 1299-1307
  2. R. Takai, S. Kimura, R. Kashiuchi, H. Kotaki, M. Yoshida, Grain refinement effects on the strain rate sensitivity and grain boundary sliding in partially solidified Al-5 wt%Mg alloy, Materials Science and Engineering A 667 (2016) 417-425
  3. Ryosuke Takai, Akira Matsushita, Shogo Yanagida, Koichiro Nakamura, Makoto Yoshida, Development of an elasto-viscoplastic constitutive equation for an al-mg alloy undergoing a tensile test during partial solidification, Materials Transactions 56 (2015) 1233-1241
  4. Ryosuke Takai, Akira Matsushita, Shogo Yanagida, Koichiro Nakamura, Makoto Yoshida, Development of elasto-viscoplastic constitutive equation for Al-Mg alloy with tensile test in partial solidification, Journal of Japan Institute of Light Metals 63 (2013) 310-317







以下、このグループが行った実験とシミュレーションの動画です。



  1. 半凝固引張試験(雄谷法)




  2. 耐熱マグネシウムダイカスト割れシミュレーション




  3. 468℃における半凝固引張試験の脆性破壊




  4. ヒーリングのある半凝固引張試験




  5. 応力場を示すI-beam流動鋳造シミュレーション(ProCAST)




  6. I-beam試験




  7. 温度場を示すI-beam流動鋳造シミュレーション (ProCAST)




  8. DCスラブ(半連続鋳造)の熱機械シミュレーション


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