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早稲田大学
創造理工学部総合機械工学科/創造理工学研究科総合機械工学専攻
輸送機器・エネルギー材料工学研究室

吉田誠研究室





アルミニウム合金開発

イントロダクション

     ダイカスト用アルミニウム合金の中でも、Al-Si-Mg系ダイカスト合金(JIS ADC 3等)は、Al-Si-Cu系ダイカスト合金(JIS ADC 12等)よりも延性に優れていることが知られています。 さらにT6熱処理を施すことにより適度な強度が得られるため、自動車の足回り部品や二輪車の車体部品などに多く使用されています。



Fig. 1 高圧ダイカスト製法によるシリンダーブロック



     ダイカスト素材は熱処理が難しいとされてきました。近年、真空ダイカスト法やポアフリー(PF)ダイカスト法など、様々なダイカスト法が研究開発されています。これによりダイカスト製品の熱処理や溶接が可能になりました。熱処理にはT6処理が多く用いられますが、T6処理時の水焼入れによる熱ひずみの発生が問題となります。T5処理では、T6処理では必須となる溶体化熱処理と水焼入れの工程が省略されます。これにより、水焼入れによる熱ひずみの低減や工程の簡略化によるコストダウンが期待できます。





Fig. 2 時効過程の比較

     また、T5、T6処理においては、実際の人工時効を施す前に室温で予備時効処理を行うと、人工時効後の機械的性質に影響を与えることが知られています。しかし、Al-Si-Mg系鋳造合金のT5 熱処理における予備時効の影響に関する報告はほとんどありません。

     私たちのグループは、Al-9%Si-0.3%Mgダイカスト合金のT5およびT6処理における予備時効温度と時間の影響を調査し、T5処理における2段階の時効挙動と強度に寄与する因子を解明しています。






実験




試験対象物質

     表 1 に示す溶融温度 998±8 KのAl-9.0%Si-0.3%Mg合金を443±10 Kに保った金型にダイカストしました。ダイカスト工程中に酸素吹を実施し、脱型後1~2秒以内に、ダイカスト製品を303K未満の温度で水冷しました。水冷後、ダイカスト製品を取り出し、図3に示す形状と寸法に機械加工しました。自然時効の影響を最小限に抑えるためにドライアイスで保管しました。



Table 1 使用するAl-Si-Mgダイカスト合金の化学組成 (wt%)
Si Mg Fe Mn Cu Ti Zn Sr Al
Al-9.0%Si-0.3%Mg 9.2 0.32 0.07 0.39 <0.01 <0.01 <0.01 0.014 Bal.





Fig. 3 試験片の寸法




熱処理

     T5 処理における予備時効条件の影響を調査するために、試験片を水冷後に3つの異なる温度(273、303、および 343 K)で0から4日まで時効しました。次に、強制循環式インキュベーター内で453 K、3時間の人工時効を行いました。なお、453Kまでの昇温時間は20分でした。これに対し、T6処理では、まず 783 Kで4時間の溶体化熱処理と303 Kで水中焼入れを行った後、上記のT5 処理と同様の処理を行いました。なお、溶体化処理における473Kまでの昇温時間は30分でした。実験フローの概要を図4に示します。





Fig. 4 実験手順




Fig. 5 人工時効炉内の試験片




Fig. 6 273K、303K、および343 Kで前時効処理し、453 Kで3時間人工時効処理した後のT5処理試験片の時効硬化曲線 [1]





結論

     本研究では、Al-9.0%Si-0.3%Mgダイカスト合金にT5処理を施し熱処理挙動を調査しました。その結果は以下の通りです。予備時効を施さない場合に比べ、273~343Kの予備時効を施した場合はT5処理における人工時効後の硬さが高く、二段時効の効果が認められました。この2段階の時効挙動がT5処理特有の時効挙動であると考えられます。






出版物

  1. Inoue T., Goto M., Yamaguchi A., Otake T., Kuroda A., Yoshida M., Effect of pre-aging conditions on T5 heat treatment behavior of Al-9%Si-0.3%Mg die-casting alloy, Journal of Japan Institute of Light Metals. 2011, vol. 61, no. 10, p. 507-512.
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