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早稲田大学
創造理工学部総合機械工学科/創造理工学研究科総合機械工学専攻
輸送機器・エネルギー材料工学研究室

吉田誠研究室





超音波を用いたアルミニウム合金開発

イントロダクション

     深刻な環境問題を解決するには、二酸化炭素などの温室効果ガスのさらなる削減が不可欠です。この目標を達成するために、世界の自動車メーカーはエンジンの燃焼効率の向上と車体の軽量化に積極的に取り組んでいます。アルミニウム合金は、軽量かつ高強度な素材として、自動車のボディや足回り部品を構成する重要な素材です。これらの特性をさらに高めるためには、材料の微細構造を改善する必要があります。

アルミニウム合金の組織改善に関しては、以下のような対策が講じられています。

  1. 微細化材を追加
  2. 製造工程における冷却速度の向上

しかし、それぞれの対策には不可避の課題が存在します。

  1. 追加の微細化材によるコスト増
  2. 鋳造品の厚い部分と薄い部分では冷却速度が異なる点

     そこで、当グループでは、軽量で加工性に優れたアルミニウム合金を開発するために、超音波振動を利用してアルミニウム合金の組織を改善(微細化)することに着目しています。






実験


     一般に、溶融金属に超音波振動を加えると凝固組織が改善されることが知られています。特に、固体が結晶化し始める液相線温度(TL)を超えて超音波振動を加えると、構造が著しく改善されることが報告されています。しかし、微細構造改善のメカニズムはまだ解明されていません。メカニズムを解明することで効率よく組織を改善することが容易になり、強度も向上させることができます。表 1 に、これまでの研究で報告されている微細構造改善メカニズムの理論を示します。私たちのグループは、溶けた金属が液体として固まり始める温度まで冷却されても液体のままであるTL付近の過冷却現象に着目しています。溶湯をTL付近を中心に4つの条件で超音波振動処理し、組織改善のメカニズムを解明します。図 1 に示す条件は、(1) TL 以上の温度、(2) 再燃前、(3) 再燃中、(4) 再燃後と定義されます。超音波振動誘発装置の概略図を図2に示します。ホーンの上下振動により溶湯に超音波振動が加わります。



Table 1 超音波振動による組織改善のメカニズム
Microstructure improvement mechanism theory Remarks Associated location
Dendrite segmentation Dendrite-arms in the solidified microstructure is segmented by ultrasonic vibration (4)
Cavitation Microstructure is improved by bubbles that appeared in molten metal by the addition of ultrasonic vibration (1), (2), (3), (4)
Non-equilibrium nucleation Above TL, nucleation is generated and with the addition of the ultrasonic vibration the nucleation is promoted (1)
Under-cooling nucleation promotion Improvement of microstructure by ultrasonic addition in super-cooling area (2), (3)





Fig. 1 TL付近の冷却曲線における超音波振動の条件:(1)TL前、(2)再熱前、(3)再熱中、(4)再熱後。





Fig. 2 超音波処理装置の概略図





Fig. 3 (1) TL 前、(2) 再燃前、(3) 再燃時、(4) 再燃後で処理されたマクロ構造。








結論


     図3に超音波振動を加えて凝固したアルミニウム合金のマクロ組織を示します。条件(1)、(2)、(3)で超音波振動を誘起すると、下部に見られるようにマクロ構造が微細化されます。ただし、条件 (4) では、得られるマクロ構造は超音波振動なしの場合とほとんど変わりません。これは、デンドライト分割理論が微細構造の微細化に寄与していないことを示唆しており、キャビテーション理論が微細構造の改善に寄与するかどうかも疑わしいと考えられます。

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